人間らしい心を知らない王子様は、魔法使いの予言どおり、みにくい野獣の姿になってしまいます。一人ぼっちになって、森の中の古城に住む野獣。
でも、美しい心の優しい娘ベルとの出会いによって、野獣の心に人間らしい心が少しずつよみがえります。はたして、野獣はもとの王子の姿に戻ることができるのでしょうか。
◆脚本/井上好文、美女と野獣実委員会
◆出演/村岡中学校2年生39名
◆上演時間/25分
1-1
効果、赤ん坊の鳴き声。
北の国の客、舞台中央。スポットが、照らす。
北の国の客:「今宵は、王子様がお生まれになったお祝いの会があるというのに。胸騒ぎがする。お城へ急がねば」
1-2
効果、ファンファーレ。幕が上がる。
背景、「城の中」。王、お城の人たち、舞台中央。 照明、明るく。
お城の人(1):「東の国のお客さまが、いらっしゃいました」
東の国の客:「本日は、大変おめでとうございます。王子様に、ライオンのような力強さをさしあげましょう」
お妃 :「ライオンのような力強さ。まあ、なんて素敵なんでしょう。ねえ、あなた」
王、うなずく。
お城の人(2):「西の国のお客さまがいらっしゃいました」
西の国の客:「王子様に、クジャクのような美しさをさしあげましょう」
お妃 :「クジャクのような美しさ。まあ、なんて素敵なんでしょう。ねえ、あなた」
王、うなずく。
お城の人(3):「南の国のお客さまが、いらっしゃいました」
南の国の客:「王子様にゾウのような豊かさをさしあげましょう」
お妃:「ゾウのような豊かさ。まあ、なんて素敵なんでしょう。ねえ、あなた」
王、うなずく。
お城の人(1):「北の国のお客さまがいらっしゃいました」
北の国の客:「誰一人として、王子様に、人間らしい心を贈らなかったのですね」
北の国の客:「王子様は、ライオンのような残酷さと、クジャクのような身勝手さとゾウのような欲深さを持ってしまわれた」
北の国の客:「王子様が、15回目の誕生日を迎えるまでに、人間らしい心を持つことができなければ、王子様は、みにくい野獣の姿、に変わってしまわれるでしょう」
王:「な、なんと」
お妃:「野獣の姿、ですって。あああ………」
音楽(1) 照明消える。
背景、「城の中」を撤去する。
舞台下手にイス。中央にバラの花。
2-1
王子、下手。イスに腰掛けている。
スポットが、王子を照らす。
王子:「誰か、誰かいないか」 (お城の人の声 「は、はい」)
王子:「誰か、誰かいないか!」 (お城の人の声 「は、はい」)
王子:「誰か、誰かいないか!!」(お城の人の声 「は、はい」)
舞台上手に王とお妃、スポットが照らす。
お妃:「あのように、王子は、ますます乱暴になっていく」
お妃:「今日は、王子の15回目の誕生日。覚えていらっしゃいますか。北の国のお客の贈り物を」
お妃:「王子が、人間らしい心、を持つことが出来なければ…… 」
王:「みにくい野獣の姿に変わってしまう」
お妃:「野獣の姿、あああ………」
舞台中央に、老婆(北の国の客)。バラの木。
スポットが老婆を照らす。
老婆(北の国の客):「なんといい香だろう(バラの花を一輪手にとって)これはこれは、みごとな虹色のバラだこと」
王子:「誰だ! 私の大切なバラの花を盗もうとするのは。誰か、誰かいないか!」
お城の人 、老婆を取り押さえる。
老婆、倒れる。
王子:「この者を、牢に、閉じ込めておけ!」
老婆(北の国の客):「(顔をあげて)王子様、あなたは、15回目の誕生日を迎えるまでに、人間らしい心を持つことができなかった」
老婆(北の国の客):「(立ち上がって)あなたは、野獣の姿に変わらなければなりません」
老婆(北の国の客):「しかし、王子様。もし、この虹色のバラの花が散るまでに、人間らしい心を取り戻すことができたとしたら、あなたは、人間の姿に戻ることができるでしょう」
音楽(2)
スポットが、王子を照らす。
王子:「あっ、熱い。体が熱い!燃えるようだ。誰か、誰か助けてくれ!」(倒れ込む)
スポット消える。
再びスポット。
舞台、下手に、野獣。
野獣:「あっ、熱い。体が熱い!燃えるようだ。誰か、誰か助けてくれ!」(倒れ込む)
2-2
舞台、上手に町の娘たち。
歌い踊る。
照明消える。背景、「町の場面」に。
3-1
照明明るく。
舞台上手に、町の人。スポットが照らす。
町の人(1):「あれから、50年。城は、すっかりイバラで覆われてしまった。なんでも、みにくい、野獣の姿、をした化け物が出るといううわさ」
町の娘たち、歌い踊る。
ベル上手から、登場。
舞台下から、息子とその子分が登場。
ダニエル:「やあ、美しいお嬢さん。今日は何の日か覚えているかい。今日は、僕と君の結婚式だよ」
ベル:「とんでもない。あなたのおくさんになるつもりはないわ」
牧師:「それでは、さっそく、結婚式の準備に取りかからせていただきましょう」
子分(1):「美しいお嬢さん。(契約書をちらつかせて)これが、何だか分かるかい。君のお父さんとの契約書だ」
子分(2) (3) 、ベルの父親を連れて上手より、登場。
ダニエル:「これは、丁度いい。あなたのお父さんもいらっしゃった。(契約書を子分から、ひったくって)美しいお嬢さん。これには、こう書いてある。契約書。私、ロベルト・ダ-ウィングは、ダニエル・ミハエルの息子ダニエル・ミハエル・ジュニアより、100万ルペンスを借り受ける。万が一、期日までに、返却できない場合は、虹色のバラを贈るか、さもなければ、娘ベル・ダ-ウィングをダニエル・ミハエル・ジュニアの妻とする」
牧師:「それでは、さっそく、結婚式の準備に取りかからせていただきましょう」
ベルの父親:「そんな契約書を交わした覚えはない」
ダニエル:「あなたご自身のサインまである。(虫眼鏡を取り出して)もっとも、こうして、虫眼鏡がなければ、見えないけれどな」
ダニエル:「さあ、虹色のバラか」
ベルの父親、首を振る。
ダニエル:「それでは、娘ベル・ダ-ウィングか」
ベルの父親、首を振る。
子分(1):「まさか、野獣の姿をした化け物がでるという(指さして)あのお城に忍び込んで、虹色のバラを取ってこようというんじゃあないでしょうね」
牧師:「それでは、さっそく、結婚式の準備に取りかからせていただきましょう」
ベル:「わかったわ。私が、お城に行って、虹色のバラを取って来るわ」
ベル、走って舞台下手に去る。
照明消える。
背景、「町の場面」を撤去する。
音楽(3)
4-1
スプーン(1) (2) (3) 、下手。上手、フォーク。
中央に、時計。スポットが照らす。
スプ-ン(1):「おれたちゃ」
スプ-ン(2):「スプーン」
スプ-ン(3):「スプーン」
スプーン(1):「スプーン」
フォーク(1) (2) (3):「せえのー。フォーク」
スプ-ン(1) :「それにしても、おれたち、いつになったら人間に戻れるのだろう」
照明消える。
4-2
照明、青色(スポット、ベルを照らす)
ベル:「真っ暗で何も見えないわ! 誰か、誰かいませんか。こんにちは! ちょっとお願いがあるんですけれど」
時計、ベルの後ろから、声をかける。
時計:「どのような?」
ベル:「わあ」
時計:「どのようなご用件で、ございましょうか」
ベル:「時計がしゃべった。あのう、実は、虹色のバラの花が、一輪欲しいのですけれど」
スポット、消える。
4-3
舞台中央に、野獣と時計。スポット照らす。
時計:「王子様、実は……」
野獣:「何! 虹色のバラが欲しいだって! あの花は、私が人間に戻るために大切なもの。誰にも、渡すことなどできん!」
スポット、消える。
舞台中央に、野獣と時計。スポットが照らす。
時計:「……」
野獣:「何! 私が、あの娘を好きになって、あの娘が、この私を好きになったら、人間に戻れるかもしれないだと?私は、生まれてからこれまで、誰も好きになったことなどない! 第一、このみにくい姿の私をあの娘が好きになどなるものか!」
スポット、消える。
4-4
舞台中央に、時計とベル。スポットが照らす。
ベル:「分かったわ。1ヵ月間このお城で、暮らせば、虹色のバラをくださるのね」
時計:「はい。そのように、私の主人が申しております」
スポット、消える。
4-5
舞台中央に、野獣と時計、スポットが照らす。
野獣:「いったいどうすれば、あの娘が、私を好きになるのだ!(娘に向かっていうように)おい、娘。この私を好きになれ!好きになれば、100万、いや、一億ルペンスをやろう!」
時計:「(おびえながら)残念ながら、お金では、人の心は買えません」
スポット、消える。
4-6
舞台中央に、野獣。スポットが照らす。
野獣:「おい、時計!お前のいったように、本を読んだぞ。3日間、徹夜をして、一万冊もだ。しかし、どうしても分からない。どうすれば、あの娘が、私を好きになってくれるというのだ」
スポット、消える。スポットが照らす。
野獣:「何、娘を食事に招待してはどうかだと。はたして、このみにくい姿の私が招待しても、あの娘が来てくれるかどうか……」
スポット、消える。
スポットが照らす。
野獣:「もう、待てん!娘の返事はまだか。いつになったら、いっしょに食事ができるのだ!」
4-7
舞台中央に、時計とベル、スポッが照らす。
ベル:「わかったわ。いっしょに食事をすればいいのね」
時計:「ありがとうございます。きっと私の主人も喜びます」
スポット、消える。
4-8
背景を、お城の中に。テーブルと椅を中央に準備。
(舞台袖から声 「お食事の準備が整ました」)
スポット、中央を照らす。野獣とベルがテーブルについて、食事をしている。
音楽(4) 、静かに流れる。
野獣:「どうだ、娘、私が恐いか?」
ベル:「(少しおびえながら)は、はい」
スポット、消える。
(舞台袖から声 「お食事の準備が整いました」)
スポット、中央を照らす。
野獣とベルがテーブルについて、食事をしている。
野獣:「どうだ、娘、私が恐いか?」
ベル:「(少しおびえながら)は、はい。(立ち上がって)でも、すがたが醜いことよりも、心が醜いことの方が、もっと悲しいことですわ」
スポット、消える。
(舞台袖から声 「お食事の準備が整いました」)
スポット、中央を照らす。野獣とベルがテーブルについて、食事をしている。
野獣:「(立ち上がって)去り行く時の彼方より、日いつしか傾き……クッソー。その後が、どうしても思い出せない。頭の中まで、ケダモノになってしまったようだ」
ベル:「(立ち上がって)ペオトル・オリビアンの誌ですね。私も大好きですわ。その続きは、山、はるかなりて、我、君と共に、ですわ」
野獣:「去り行く時の彼方より、日いつしか傾き……」
ベル・野獣:「山、はるかなりて、我、君と共に」
照明消える。
第五幕の準備。町、向こうに城が見える。
音楽(4) 、段々強く、そして消えていく。
5-1
舞台上手に、ダニエルとその子分たち
ダニエル:「おい! お前! お城へ忍び込んで、様子を見てこい!」
子分(1):「わっ、わ、わたしがですか? おい!お前!お城へ忍び込んで、様子を見てこい!」
子分(2):「わっ、わ、わたしがですか? おい!お前!お城へ忍び込んで、様子を見てこい!」
子分(3):「わっ、わ、わたし…… そうだ」(子分(2) へ耳打ちする)
子分(2):「なるほど」(子分(1) へ耳打ちする)
子分(1):「それはいい」(ダニエルへ耳打ちする)
ダニエル:「よし、わかった」
ダニエル:「(客席に向かって)みなさん、よ~く聞いてくれ」
町の人たち登場
ダニエル:「これから、あのお城に忍び込んで、化け物をやっつけようではないか」
町の人たち、首を振る。
ダニエル:「わかっている、わかっている。もちろん、ただでとはいわない。化け物を退治した者には、5万ルペンス。娘を連れて戻った者には、さらに5万ルペンス差しあげようではないか」
町の人たち:「あわせて、10万ルペンスだって。よし! 行こう。行こう!行こう!」
照明消える。第6幕の準備、お城の中
6-1
ダニエル、町の人、下手から。
ダニエル:「真っ暗ではないか。誰か、明かりをつけろ」
(照明、赤色)
ダニエル:「おい! お前たち! 先に行け!」
町の人(1) (2) (3) 、恐る恐る、上手へ。野獣とベル、上手から。
町の人たち、驚いて、舞台下手に。
ダニエル:「やあ、美しいお嬢さん。まさか、このボクよりもその化け物の方がいいというんじゃあないだろうねえ」
ベル:「あなたなんか、ダ・イ・嫌いよ」
ダニエル:「仕方がない。それでは、力ずくでも、連れ戻すことにしよう。皆の者、行け! 何をしている、10万ルペンスだぞ、行け!」
6-2
町の人たちとスプーン、フォークがたたかう。
6-3
町の人と野獣がたたかう。野獣が勝つ。
6-4
ダニエルと野獣がたたかう。野獣が勝つ。
6-5
音楽(5) 、静かに流れる。
野獣:「ベル。あなたと約束した日から、今日でちょうど1ヵ月。この虹色のバラを持って帰りなさい。あなたは、あなたの町で、あなたのお父さんといっしょに暮らす方が幸せだろう」
ダニエル、忍び寄って、後ろから野獣をナイフで突き刺す。
ベル(悲鳴)
ダニエル:「さあ、美しいお嬢さん、いっしょに帰ろう。野獣、最後の力を振り絞って、ダニエルを突き飛ばす。
ダニエル、転げながら、舞台下手へ去る。
野獣、ゆっくりと倒れながらも、虹色のバラをベルに渡そうとする。
ベル、野獣を抱きよせて
ベル:「死なないで、死なないでください。あなたの姿は野獣だけれど………心は、誰よりも人間らしい………(野獣、力尽きる)ああ~(泣き崩れる)」
6-6
北の客、舞台、上手から
北の客:「王子よ、野獣の姿をした王子よ。ついに、人間の心を取り戻し王子よ。(大きな声で)今、呪いは、解かれた!」
音楽(2) 流れる。
照明、消える。
6-7
舞台、明るくなって。中央に王子が倒れている。
町の娘たち、歌い踊る。
ベル:「あなたは、誰ぁれ」
王子:「私です。お分かりになりませんでしょうか」
ベル:「その声は、野獣さん?」
王子:「あなたのお陰で、人間に戻ることができました」
ベル、王子、歌う。
全員が舞台へ、全員で歌。
幕が降りる。
1回すごい!ボタンが押されました