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TOSSランドNo: 6904405 更新:2012年12月30日

向山実践DVD 3年「春」(1985年)の授業分析


1.1時間の授業の構成

 向山氏の1時間の授業の構成を以下に書き出す。
 まとまりごとに区切り線を入れている。
 その活動を始めた時間も一緒に表記している。

1.空書き
────────────────────────────────
2.板書(読む)
3.音読(2列12名)
4.読みの確定
5.音読(1列6名)
6.音読(5回読んで座る)→女の子への対応
7.指名なし音読(4名)
────────────────────────────────
8.考えられることの箇条書き 12'55 (ただし,言い直しが 13'24)
9.1つできたら持ってこさせる 14'11
10.書いてない子に持ってこさせる 16'10
11.書いたことを発表させる 17'33
────────────────────────────────
12.2つの意見に絞る 20'44
13.隣同士で話をさせる 21'29
14.2つの意見について討論する 22'00
15.人数を挙手で確認する(終える) 24'28
────────────────────────────────
16.その他の意見を発表させる 25'02
17.2つの対立する意見を採り上げる 28'52 (空想であることを確認)
────────────────────────────────
18.話者の位置を目玉で描かせる 29'43 (同じ指示を 30'30頃出す)
19.絵を描いたら持ってこさせる 31'53 (全員が描き終わるのが 34'45)
20.絵を説明させる
21.こぶせ君の説明を聞く 39'30
────────────────────────────────
22.絶対に違うものを1つ選ばせる 40'28
23.証拠を詩の中から探させる 40'42
24.人数を挙手で確認する 41'18 (授業終了 42'28)

 太田のまとめ方でいけば,1時間に7種類の活動を入れていることになる。
 単純に割ったとして,1活動当たり6分程度になる。
 テンポ良く授業が進んでいっていることが分かる。

2.授業上達チェックリスト

 TOSS島根の機関誌『教師の仕事』31号に「授業上達チェックリスト」を執筆することになった。題材はこの「春」の授業である。
 リストアップしていき,そこから次の10項目に絞った。

1.授業の最初から本題に関係した活動を行う。
2.変化のある繰り返しで,教材文を25回以上読ませている。
3.教師の言葉が短く,キーワードが強調されている。
4.教師の立ち位置が状況に応じて変わっている。
5.常に黒目が動いて全体を見ている。
6.子どもたちに笑顔で優しく対応している。
7.ノートを見る時間は1人あたり4秒程度である。
8.全員が意見をもった状態にしている。
9.対立する2つの意見に絞って意見を言わせている。
10.空白の時間を作らない。

 それぞれの項目について詳述する。

  1.授業の最初から本題に関係した活動を行う。

 最初の活動は「空書き」である。一見,何の関係もなさそうである。
 しかし,扱っている漢字に注目して欲しい。「土」「上」「達」の3つである。
 この3つの漢字を扱ったのには理由がある。
 この授業の直前に,三好達治の「土」の授業があった。
 「土」は1年生で学習する漢字である。全員が書けると考えて良い。
 全員が参加できる活動から入っていることは,障害を持った子にもやさしい導入であると言える。
 「上」は,「土」と似た漢字である。しかし,書き順は異なる。ここで,子どもたちは2つに分かれた。「あれっ」と思い,授業に引き込まれるだろう。
 まさに変化のある繰り返しで組み立てられている。
 3つ目の「達」は未習の漢字である。しかし,それをわざと書かせている。当然,空書きできる子はわずかしかいない。
 では,なぜ「達」を扱ったのか。
 「韃靼海峡」の「韃」を読ませる時の布石なのである。
 向山氏はこのようにして,授業の最初から子どもを巻き込み,しかも,本題に関係する導入を行っているのである。

  2.変化のある繰り返しで,教材文を25回以上読ませている。

 1時間の授業で,指名なし発表や指名なし討論をやり,話者の位置の図示までさせているのである。
 我々が授業しようとすれば,音読の部分を軽く扱ってしまいがちになる。
 しかし,向山氏はわずか10分足らずの間に,合計25回以上の音読をさせている。
 (1) 最初は2列を指名して計12名が音読。さらに3名が自由に立って読んでいる。
 (2) その後,分からない言葉・漢字を確定し,さらに1列6名に音読させている。
 (3) この時点で,言葉を確定したにも関わらず,間違えて読む子もいた。
    3年生の太田学級で追試した時も,向山学級と同じような間違いをする子がいた。
   この6名が読むことで間違いが修正され,全体が正しく読めるようになった。
 (4) 向山氏はさらに「立って5回読んだら座りなさい。」と指示をしている。
   この指示を出した後,向山氏はある子の包帯がとれかかっているのを直しに行っている。
    この指示は空白の時間を生じさせないためのものだったのか。
    それとも,もともと予定していたものだったのだろうか。
   「5回」というのは結構回数が多い。
    向山氏はもともと全体に読ませるつもりだったが,急な対応のため多めの回数を指示したのではないかと推定する。
 (5) さらに「読みたい人」に読ませている。これは,対応の時間が延びたためだろうか。
    それにしても指名なしでさっと4人が音読する姿はすごい。
   普段からそのような指導がなされているということだろう。

  3.教師の言葉が短く,キーワードが強調されている。

 向山氏の言葉は1つ1つが短い。一方で,キーワードは繰り返し繰り返し言っているのがよく分かる。例えば,これである。

 はい,それじゃあ聞きます。こぶせ君の意見は,これ,見てないと。作者は見てないんだと。話者ですか?見てないと。見てないで書いたと。空想で書いたんだと。それから,しゅうちゃんは『渡って行った』とあるから,そこに,話者の目玉はあるんだと。

 「見てない」という言葉が実に4回も繰り返されている。そして最後に「空想」という言葉に置き換えられている。
 平山諭氏によれば,「3回繰り返す」ことで情報が入りやすくなるということである。向山氏の授業はまさにその繰り返しを行っているのである。
 向山氏の授業は,この点から言っても,障害を持った子に優しい授業であると言えるだろう。

 4.教師の立ち位置が状況に応じて変わっている。

 向山氏はこの授業の中で,立ち位置を3通りに変えている。

  (1) 黒板の真ん中に立つ。
  (2) 黒板の左端に立つ。(画面の左という意味)
  (3) 黒板から少し離れた左側に立つ。黒板と子どもの机の間ぐらいの位置。

 (1)は,全体に発問・指示・説明を行う時である。子どもたちが発表している時以外は,このように真ん中に立って話をしている。
 (2)は,最初に子どもたちが指名なし発表をし始めた時である。黒板の左端に貼り付くような格好で,発表している子どもたちと聞いている子どもたち両方に目をやっている。しかし,しばらくするとその場から動き,画面から消えている。
 (3)は,その後,指名なし発表,指名なし討論と続く間の立ち位置である。ちょうど発表している子どもと聞いている子どもたちとの間に立っている。この時も,両者を常に見ている。
 以上のことから,次の2つのことが言える。

  A 指名なし発表(討論)の間は,子どもの視界に入らない場所に立つ。
  B いずれの場合も,常に全体が見渡せる場所に立つ。

 立ち位置に関係して,目線のことにも触れる。

 5.常に黒目が動いて全体を見ている。

 DVDを見ると,驚くほど向山氏の黒目が速いスピードで動いていることに気づく。
 常に全体を見ているのである。目線というと,顔を動かすことを考えがちだが,黒目を動かすことも大事なのである。

 6.子どもたちに笑顔で優しく対応している。

 一番最初にDVDを見た時に印象に残ったのは,向山氏の「優しさ」である。
 1時間の間中,向山氏の対応は非常に優しい。
 Mさんという女の子が足を上げている場面では,次のように言っている。

 Mさん。レディーがすることじゃございません。はい。足をおろしなさい。

 決して叱っていない。柔らかい口調でそっと言っているのである。こんな注意のされ方なら,嫌な思いはしない。反省もするだろう。
 ADHDなどの障害を持った子が,二次障害である反抗挑戦性障害を引き起こしてしまう例があるが,向山氏の対応は,まさに反抗挑戦性障害を防ぐお手本とも言える。
 向山氏の他の子への対応もすごい。

  (1)「わかった!もう一度もう一度。」
   →「ちょっと待って下さいね。」
  (2)「先生,わかったことがあった。(中略)五・七・七になっちゃうの。」
   →「なっちょうの。なるほど!すごい!今,読み方やってますから,今,
     しゅうちゃんのやつ,後でやりましょうね。」
  (3)「韃靼海峡ってどこ通ってるの?」
   →「秘密です,それは。」
  (4)「先生!先生!」
   →「1列起立。しゅうちゃん待っててね。読んだら座りなさい。」
  (5)「先生,あのさあ,渡って行ってどこに行ったんですか?」
   →「ねえ。」
  (6)「先生,どうして「春」がついてるのに,「春」という意味が出てきてないの?」
   →「どうして春がついてるのになんでしょうね。」
  (7)「韃靼海峡ってどこを通ってるの?」
   →「韃靼海峡っていう海峡,海とあの,陸と陸の間ですね。陸地と陸地の間
    を海峡と言います。陸と陸の間を海峡と言います。その意味です。」

 いずれも音読中の子どもたちの発言であり,その発言への対応である。
 向山氏がはっきりと子どもの発言に答えているのは,(7)だけである。
 それ以外の向山氏の対応をまとめるとこうなる。

  A 待たせる。
  B 教えない。(「秘密です。」)
  C 子どもと同じ言葉を繰り返す。

 さらに付け加える。

  a 「笑顔」で対応している。
  b いろいろな種類の対応をしている。
  c 本線からそれることは採り上げない。

 これなら子どもたちは無視されたとは感じないであろう。
 望ましくない行動は無視をするのも1つの技術であるが,それでは発言した子どもたちの心は満たされない。
 向山氏のような対応がなされていれば,たとえ答えてもらっていなくても,子どもたちは満足することができるだろう。関わることも大事なのである。

  7.ノートを見る時間は1人あたり4秒程度である。

 向山氏のノートチェックは一定の時間で行われている。
 「………はい。………はい。………はい。」と言った感じである。
 それが大体3秒から4秒の間である。
 もちろん,突っ込んで子どもに聞く時もある。だが,一定の間隔で見ていくことが基本である。
 また,この授業では赤鉛筆で丸を付けてはいない。意見が書いてある部分に人さし指を置き,確認している。他の向山実践でも同じように人さし指だけで確認しているのか気になるところである。

  8.全員が意見をもった状態にしている。

 「この詩を見て,思いついたこと,考えついたこと」を書く場面では,1つ書けた子をチェックした後にこう言っている。

 まだ来てない人,いらっしゃい。
  書いてなくてもいいですから,いらっしゃい。 

 「書いてなくてもいい」というところが向山氏の優しさである。
 向山氏の対応をまとめる。

  (1) 途中まで書いている子への対応
   「はい,その後,ずーっと続けて書いて行ってください。ずーっと書いていきなさい。1つだけじゃなくずーっと書いていきます。」 
  (2) 自分の意見が違うかも知れないと自信のなさそうな子への対応
   「かもしれない?でも,面白いよ。その方が面白いかも知れないよ。
     そういうふうに書いてあるけどもっていうのも面白いかも知れないよ。」
  (3) 何も書いてない子への対応
   「はい。何も思いつかないかな?何回か読んでてね,ぱーっと思ったこと書けばいいですからね。
     何かぱーっと思ったことあるかなぁ。何も…読んで何も思わなかったかな? 面白いなぁとかそういうの思わない?
     思った? そういうのでいいんだよ。」

 どんな場合でも,向山氏は否定をしていない。常に笑顔で接している。
 どうしても書けない子には,「面白いなぁとか思わない?」とまで言っている。
 とりあえず全員がノートに書いてある状態にすることで,次の活動への意欲も変わってくるだろう。
 もう1つ向山氏が全員に意見を持たせるために行っている手だてがある。

 隣同士相談しなさい。どちらに賛成か。

 わずか30秒ほどの相談時間であるが,隣同士であれば全員が何らかの意見を言うこともできる。また,自信のない子にとっては,相手の意見も聞くことができるので心強いはずだ。意見を持っていなかった子も,隣の子の意見を聞いてとりあえず決めるには十分な時間だ。
 こうした1つ1つの詰めがあるからこそ,子どもたち全員が授業に参加しようとするのだろう。

 9.対立する2つの意見に絞って意見を言わせている。

 多くの向山氏実践に共通することがある。

  (1) 子どもの意見から出発している。
  (2) 対立する2つの意見に絞り込む。
    (あるいは,1つの意見について賛成か反対かを聞く。)

 子どもの意見を採り上げるから,子どもたちはより本気になって考えるだろう。
 そして,それが2つに絞り込まれているからこそ,討論も可能になる。これが3つも4つも意見がある状態では,意見がかみ合わない。
 理科の「磁石」の授業も「豆電球」の授業もそうだった。「雪」の授業も子どもたちの発表の中から意見を採り上げ,2つに絞って組み立てている。
 しかし,それは思いつきでなされているわけではないだろう。
 向山氏の深い教材研究があり,本筋を追究するためには何を問えばいいかがはっきりしているから,子どもたちの見つけた発見や意見が,向山氏のアンテナに引っかかるのだろう。そうした子どもの意見を聞き逃さない向山氏の鋭いアンテナには驚くばかりである。

  10.空白の時間を作らない。

 「授業の腕を上げる法則」にも出てくる基本中の基本だ。
 しかし,「空白の時間を作らない」というのは結構難しい。
 向山氏は,包帯が取れた子に対応している間も,前述したように音読をさせ,空白時間を作らなかった。
 また,まだ意見が書けていない子に対応している時も空白の時間を作っていない。

  はい,その後,ずーっと続けて書いて行ってください。ずーっと書いていきなさい。1つだけじゃなくずーっと書いていきます。

 このような基本的な原則が当たり前のように貫かれている。だから,向山氏の授業には隙が見あたらない。流れるように授業が展開していく。
 しかし,教師の一方的で強引な授業ではない。
 子どもたちに優しく対応している授業である。
 子どもの活動時間が十分保障されている授業である。
 子どもの意見から組み立てられている授業である。
 全員の活動を保障している授業である。


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