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TOSSランドNo: 2330003 更新:2012年12月12日

イベントで学級は成長する


1.合言葉は「スパスィーバ」

 

 「スパスィーバ!」
 私はすぐに立候補した。
 「1学期の学級イベントとして何かをやりたい」と考えていたからである。
 生徒には、次のように話を持ち出した。みなさんは「ビザなし交流」を知っているよね。

今度、北方領土に住むロシアの中学生が中央中を訪問することになりました。
教頭先生に「2年A組と交流をもって欲しい…」とお願いされています。
どうです。やってみたいと思いませんか?

「やるやる」と、私の話が終わらないうちに手を挙げたのは洋子である。洋子は学級一の行動派である。「授業カットになるんでしょ?」「女の子も来るんでしょ?」と質問したのは、豊と和之の2人。学級のムードメーカーである。「去年、ロシアの中学生が私の家にホームステイしたけど、絶対に楽しいよ!」と、落ち着いた声で発言したのは学級委員長の結香である。結香の一言で学級の意見がまとまった。ここで私は実行委員を募った。

交流会まで10日間あります。
中学生を歓迎するのですから、みなさんが何をするのかを考えてください。
みんなが楽しめることを第1に企画してくれれば、先生は何も言うことはありません。
もちろん先生も相談に乗ります。

企画と運営は《やりたい者》が集まって進めるべきである。強制された実行委員会からは、本当の《楽しさ》は生まれてこない。やりたい者が集まるから、いいアイディア生まれる。そして、みんなも協力する。私はそう考えている。結香・洋子・和之・徹の手があがった

2.結香の成長は学級の成長

放課後、4人で話し合いが持たれた。私は4人の動きを見守った。初めて日本を訪れるロシアの中学生10人が楽しめる企画を考えなくてはならない。4人が出した企画は、《ミニバレー&折紙大会》である。全員を6班に分ける。4つの班がミニバレーを楽しみ、1つの班が審判、残りの班がステージで折り紙をロシアの中学生に教える。
 それを時間でローテーションするという内容であった。
朝の学活で、結香は次のように提案した。

初対面で、すぐに会話をするのは難しいと思います。
言葉が通じないので、気まずい雰囲気になってしまいます。
でも、体を動かしていると、不思議なことに心が通じ合うものです。
去年のロシアの中学生との交流会でわかりました。
4人で話し合った結論は《ミニバレーをメインにしたい》ということです。
でも、私のように「運動が苦手だ」というロシアの中学生もいると思います。
その人のために、折紙もしたいと思います。
昨年、私の家にホームステイした子は「折紙はおもしろい」と夜遅くまで折っていました。

全員の手があがって承認された瞬間、結香は大きなガッツポーズをとった。冷静な結香にとっては、珍しい姿であった。提案の前日「この提案でいいのでしょうか?」と、結香は私に相談した。ロシア中学生との交流は、学級にとって初めてのイベントである。まだ、学級の誰が何を望んでいるのか、結香にはわからないという。学級がまとまっていない段階で、この提案が承認されるか心配していたのである。イベントは、それだけで学級をまとめる力がある。学級がまとまっているからイベントを行うのではない。学級をまとめるために、イベントを行うのである。私は「細かな部分まで配慮されている立派な提案です。自信を持って提案してごらん」と、結香を勇気づけた。結香は大きく頷いた

3.イベントは学級を動かす

翌日、結香が1枚のプリントを持って職員室にやってきた。そのプリントには《簡単なロシア語会話例》とあった。男子が「どうせならロシア語を話せるようになりたいなぁ」と話していたそうである。学級全員で友好ムードを盛り上げるために簡単なロシア語を覚えたいというのである。すぐに、私は人数分を印刷した。
 給食の準備時間、昼休み、帰りの学活を使って、ロシア語教室が開かれた。結香が教室の前に出てロシア語を読み、その後に全員が続いた。
      「スパスィーバ」 (ありがとう)
     「ズドラーストビィチェ」 (はじめまして)
生徒は笑顔であった。「模造紙をください」と、和之と徹が職員室にやってきた。歓迎の看板を作りたいというのである。生徒はよく気付くものである。そのことを褒めると、「だって、看板がないと格好つかないでしょ!」と和之。「国際交流には相手を思いやる心が大切ですよ。先生が社会の時間にいつも言っていることじゃない!」と徹。2人は模造紙5枚を持って、教室に向かった。30分後、教室へ行った。
 教室には和之と徹のほか、5人が作業をしていた。「ごくろうさん」と声をかけると、「2人が楽しそうに作業をしているので手伝っています」と優作が言った。陽介は「学級のために働きたくなりました」と笑顔で言った。実行委員の活動は、少しずつ広がりを見せていった。

4.楽しければ仲間が増える

職員室に戻ると、結香・洋子・なつみの3人がいた。実行委員の話し合いになつみも参加するようになっていた。「楽しそうだから、私もやってみたいと思った」というのが、その理由であった。実行委員が楽しく活動していれば、仲間がどんどん増えてくる。そして、活動は活性化する。
 学級の雰囲気は、イベント成功に向けて盛り上がる。3人を代表して、洋子が「先生に相談があります」と切り出した。「中央中を訪れる思い出として、ロシアの中学生に記念品を贈りたいけど、何をプレゼントしたらいいのかわからない」というものだった。結香は「1人100円ずつ集めて、何かを買おう」と主張した。その一方で、洋子となつみは「お金をかけない手づくりの物がいい」と主張した。教室で係の仕事をしている仲間に聞いたところ、半々に意見が分かれたという。そこで、私に相談したのである。
 本来であれば、学級全体で話し合わせたであろう。しかし、ロシア人中学生の訪問は2日後に迫っていた。話し合う時間がない。そこで、私は「先生は、ロシアから来るお客さんと楽しく交流することが1番の目的だと思うよ。もう1度練り直してみなさい」とアドバイスした。3人は「もう1度話し合ってみます」という言葉を残して、教室に向かった。

15分後、3人が職員室にやってきた。
「学校にある色紙を10枚使わせてください」と、結香は丁寧な口調で言った。3人が出した結論は《記念品として筆で書かれた字をプレゼントしたい》というものであった。そのために、学校の色紙を使わせてほしいという要望であった。
       「トラブルが起きたらみんなが嫌な思いをするから、お金は集めない方がいい」
        「中学生の交流だから、手作りでもてなそう」
という結論になったという

私は、早速、3人と一緒に教頭にお願いした。教頭は「10枚といわず、15枚でも、20枚でも使ってください」と笑顔で許可してくれた。
3人は何度も何度も、教頭に「ありがとうございます」と言った。私は物品庫の棚から色紙を10枚取り出し、3人に手渡した。翌朝、朝の会で洋子が提案した。

ロシアからのお客さんに記念品を贈りたいと思います。
書道教室に通っている人が5人いるので、その人に2枚ずつ色紙に字を書いて欲しいのです。
協力をお願いします。

5人は快く承諾してくれた。しかし、5人は「どんな字を書いたらいいのかわからない」という。そこで、字の募集が始まった。生徒は思い思いの字を発表していった。自分の名前やアイドル歌手の名前もあった。英語で《LOVE》という案も出されたが、すぐに「それは変だ!」という理由で却下された。色紙に書く字を決めるというだけで、教室は明るいムードに包まれた。最終的に決まった字は、次の10種類である。
   『友好・交流・愛・日本・和・別海・夢・心・絆・輪』
5人の担当者に、色紙が手渡された。

5.学級に対する誇りが生まれる

7月6日、拍子と歓声の中、ロシアの中学生10人が入場した。開会式では、結香がロシア語を交えて「歓迎の言葉」を述べた。深夜1時までかかって文章を書き、暗記したという。このイベントにかけた熱意が伝わってきた。「こんな温かい歓迎は初めてです」と、引率のグラゴレフ先生が教えてくれた。ありがたい言葉である。

通訳、外務省の担当者、役場の職員、報道関係者などが見守る中、早速ミニバレーが始まった。長旅の疲れで元気がなかったロシアの中学生も、豊と和之の爆笑プレーに表情がやわらいだ。言葉は通じなくても、「楽しい」という思いは伝わるものである。アレクセイのスパイクに飛びつく康之。 マリーヤのサーブがどうしても取れない美咲。1つ1つのプレーに、拍手と歓声が湧き起った。ステージでは、実穂と麻美がアルチョムとアンナに鶴を折っていた。折紙に挑戦する2人の目は真剣であった。その様子を見ていた純也は「アンナがかわいい!」を連発していた。かなわぬ恋と知りながら、一目惚れしたようであった。(中学生らしい)

時間とともに、心がうち解けていった。日本語、英語、ロシア語ごちゃ混ぜの会話が、体育館いっぱいに響いた。楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。最後に、色紙とペナントを交換して1時間の交流会を終えた。生徒はバスが見えなくなるまで、手を振って見送った。結香は次のような感想を書いた。

とても感激しました。楽しかったです。実行委員を引き受けたけど、どうなるか心配でした。
4人が話し合っていると、必ず誰かが入ってきてアドバイスしてくれました。
看板作りも最初は2人だったのに、だんだんと増えていきました。
楽しくできたのは、みんなの気持ちがあったからだと思います。
B組の孝美に「A組はいいね」と言われました。
私もそう思います。(これって、自慢?)

6.中学生にこそイベントが必要

 『向山学級を中学校でも実現したい』
 
私の夢であり、目標である。その向山学級を語る上で欠かせないものが《イベント》である。イベントには夢がある。その夢を実現する過程で、子どもはいくつもの《学び》を経験する。授業では学べない活動が、楽しさの中で体験できる。最初は4人でスタートした実行委員会も、楽しそうに活動している様子を見て、1人、2人と仲間が増えていった。楽しい活動には、人を引き付ける力がある。

「話し合う」「企画を提案する」「ロシア語教室を開く」「看板を作成する」「記念品を考える」「ロシア語で挨拶する」「言葉の壁をこえて交流する」など。イベントは貴重な体験を提供してくれる。 《楽しさ》を学級全員が共有することで、学級は《群れ》から《集団》へとまとまっていく。「中学校の実践は、それが本物なら、ダイナミックだ。小学校の比ではない」と向山洋一氏は、我々中学教師にエールを贈ってくださっている。そのエールにこたえるには、まずはイベントを学級で企画することから始めたい。どんな小さなイベントでも、中学生は熱中する。中学生の限りないエネルギーを《イベント》という場で発揮させてあげたい。

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