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TOSSランドNo: 2310007 更新:2012年12月12日

「生徒が書く感謝の手紙」で学級を閉じる


 卒業式。
 それは、生徒が最も素直になる日である。
 喫煙で何度も指導された亮一も、友達とのトラブルで保健室登校を続けた京香も、授業をサボってばかりいた啓太も、笑顔でこの日を迎えた。
 「いろいろ事件を起こしたけど、今は先生に感謝している」と語った亮一。
 私の話をいつも温かい心で聞いてくれた先生たちのおかげで今日を卒業することができました」と卒業文集に書いた京香。<
 「先生に迷惑をかけたら、俺が承知しないぞ」と後輩を集めて説教している啓太。
 卒業式は、すべての出来事を「良き思い出」に変えてくれる。
 だからこそ、私は卒業式を迎えるに当たり、次のことをいつも考える。

もっともっと素直になって卒業して欲しい。

 北海道の場合、公立高校の入試の約1週間後が卒業式である。
 この1週間は、新学期同様《黄金の1週間》である。
 学級レクや学年スポーツ大会、卒業文集づくり、予餞会など、生徒が楽しみにしているイベントが目白押しである。
 受験勉強から解放され、伸び伸びと残り少ない中学校生活を楽しむことができる。
 だからこそ、私は毎日1時間ずつ学級活動の時間を入れていただく。
 中学時代の証として、作文を書かせるのである。
 
 今日の総練習は立派でしたね。
 みなさんの中学校生活3年間が充実した証拠です。
 総練習を本物の卒業式にしてもいいほどでした。
 綾子さんと奈緒子さんは、感動のあまり涙を流していました。
 それほど、いい総練習でした。
 先生も感動しました。
 ステージを見つめるみなさんの真剣な目を見ていて、「いい学級、いい生徒と出会えたなぁ」と強く思いました。
 みなさんが、このように立派に育ったのはたくさんの先生との出会いがあったからです。
 小学校時代を思い出してください。
 大きなランドセルを背負い、黄色い帽子をかぶって入学式を迎えたはずです。
 それから6年間、たくさんの先生に世話になりました。
 きっと、その先生方全員がみなさんの卒業を喜んでくれるはずです。
 小学校時代、最もお世話になった先生を1人頭に思い浮かべてください。
 その先生のおかげで、今日を迎えることができたのです。
 その先生に、卒業の報告をしましょう。
 これから便箋と封筒を配ります。
 感謝の気持ちを込めて、手紙を書きます。
 その手紙は、私が責任をそれぞれの先生に届けます。
 
 「えー」という生徒の声を予想していた。
 しかし、教室はいたって冷静だった。
 「釧路に転勤した先生でもいいですか」と香織が質問した。
 私は「大丈夫です。先生が学校を調べて速達で送ります」と答えた。
「書く先生が決まった人?」と尋ねた。
 全員の手があがった。
 「時間は20分です。書き始めてください」という私の声を合図に、書き始めた。
 教室には鉛筆が動く音だけが響いた。 
 いつもは「作文なんか大嫌い」と言う彰でさえ、黙々と書いていた。
 書き終わった生徒には、封筒に宛名を書くよう指示した。
 20分を過ぎても、「まだ書きたい」という生徒が10人以上いた。
 良子は便箋3枚を越える大作を仕上げた。
 放課後、生徒の手紙を読んだ。
    「おかげさまで義務教育を終了します」
    「馬場先生が私の目標です。将来は絶対馬場先生のような先生になります」
    「教室で食べたアイスクリームの味が今でも忘れられません」
 
 私が嫉妬してしまうような(?)内容ばかりであった。
 全員が小学校の先生に対して《感謝の気持ち》を綴っていた。
 その日のうちに、関係する先生に手紙を届けた。
 ある先生からは「生徒によろしくお伝えください」と電話がかかってきた。
 また、ある先生からはきれいなイラスト付きの電報が届いた。
 更に、「私にとって初めての卒業生です。年休を取って卒業式に出席します」というファクシミリも届いた。
 翌日の朝の会でこのことを生徒に伝えると、教室には歓声が上がった。

一人でも多くの人に、生徒の卒業を祝って欲しい。

 私の願いがかなえられた瞬間であった。
 最後の学級活動の時間となった。
 生徒に伝えたいことはたくさんある。
 語りたいこともたくさんある。
 しかし、これからやることに比べれば、これらは取るに足りないことである。
 生徒の卒業を最も喜んでいるのは、間違いなく生徒の親である。
 親の存在に比べれば、教師はあまりにも小さな存在である。
 明日は、生徒と親が主役である。
 私は、生徒と親が「いい卒業式だった」と思える演出をしたい。
 それが担任としての最後の仕事である。
 
 昨日の放課後、みなさんの手紙を小学校の先生に届けました。
 たくさんのお返事をいただきました。
 みなさんの卒業をこんなにも多くの人が喜んでくれるのです。
 みなさんは本当に幸せです。
 そんなみなさんに、先生から1つお願いがあります。
 先生がみなさんにする最後のお願いです。
 みなさんの卒業をこの世の中で最も喜んでくれる人は誰ですか?
     
(「親」という声)
 そうです。
 その通りです。
 みなさんのお父さんとお母さんです。
 間違いなく、どんな人よりも喜んでくれるはずです。
 そんなお父さん、お母さんに、君たちがしなければならないことは何ですか?
     (「感謝すること」という声)
 その通りです。
 家に帰ってから、親に「今まで、どうもありがとうございました」と頭を下げてお礼を言える人は手をあげてください。
    (誰も手が上がらない
 そうですよね。 
 先生も恥ずかしくて、そんなことはできませんでした。
 でも、先生は「感謝の気持ちは伝えるべきだ」と思っています。
 口で伝えられないのなら、手紙で伝えましょう。
 明日、卒業式が始まる前、受付でみなさんがこれから書く手紙を渡します。
 感謝の気持ちを文章にしてください。
 
 さすがに、今日は「えー」という声があがった。
 でも、嫌がっている「えー」ではなかった。
 その証拠に、生徒の表情には笑みがあった。 
 昨日同様、便箋と封筒を配った。 
 「時間はたっぷり30分あります」と言ってスタートさせた。
 すぐに、教室はシーンとなった。
 鉛筆を勢いよく動かす洋介。
 考え込む弘幸。
 「漢字使わないと恥ずかしい」と言いながら辞書を引く愛子。
 反抗期にある生徒も、このときばかりは素直に気持ちを書きつづっていた。
 
 放課後、生徒の手紙を読んだ。
     「いつも感謝しています。将来、絶対に親孝行するからね」
     「いつもいつも感謝しているけど、素直に《ありがとう》が言えません」
 という文章に、私は胸が熱くなった。 
 その一方で、
     「必死で受験勉強しました。合格したら携帯電話をかってください」
 というチャッカリ者もいた。
 これも愛情の裏返しなのだろう。
 
 卒業式の夜、『卒業を祝う会』が行われた。
     「娘から手紙をもらったのは初めて。とても感激しました」
     「この手紙は仏壇にあげて、おじいちゃんにも読んでもらいました」
     「手紙は反則です。卒業式が始まる前から涙が止まらなくなったじゃない」
     「反抗ばかりしている息子に、こんな優しい気持ちがあったなんて、正直なところ知りませんでした」
 親との会話は手紙の話題ばかりであった。
 生徒の正直な心が綴られた手紙は親の心にしっかりと届いたのである。
 
中学校の卒業式は、小学校の比ではない。
 この日を最後に、全員が一つの場所に集まることはまずない。
 それを生徒は知っている。
 だから、生徒は素直になる。
 《その気持ちを大切に学級を閉じたい》と私は思う。
反抗期にある生徒が書く感謝の手紙。
ありきたりの「ありがとう」より、親の心に伝わるはずである。
そうして染谷学級は幕を閉じた。


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