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TOSSランドNo: 3679698 更新:2013年10月21日

三 「ごまかしたり、嘘をついたりしない」という生き方    河田孝文


~「教科書かくし」事件をめぐって~

1 教科書紛失事件とその後

 1 教科書紛失事件とその後
 六月、担任していた六年生の子の国語の教科書がなくなった。
 本人曰く、家で母親と一緒に探しても見つからない。ランドセルに入れる時と机にしまう時以外は触った記憶がない。
 となると、教室内で紛失した疑いが濃厚である。
 そこで授業を中断し、子ども達に次のように告げた。
「○○君の教科書が学校でなくなったそうです。家にもないそうです。このままでは、○○君は教科書なしで国語の授業をしなければならなくなっちゃいます。みんなで探しましょう」
 かくして教科書大捜索が始まった。子ども達は、手分けをし教室や両隣りの多目的室・六年集会室からトイレにいたるま
で細部にわたって探し始めた。
 それから15分後、教科書は出てきた。
 ある子が、教室後方の掃除道具入れの中から探し出してきた。
 教科書は、ワックスがけ用のモップの下におかれていた。
 掃除道具入れは毎日開閉されmほうき・ちりとり・バケツが出し入れされる。
 このモップはワックスがけ用である。ワックスがけは学期に一度しか実施されない。つまり、モップが使われることはほ
とんどないのだ。
 教科書は、その下にきちんと置かれていたのである。
「何かのはずみ」という偶然性は、限り無くゼロに近い。
 私は、すぐに子ども達をあつめて、次のように告げた。
「○○君の教科書が、掃除道具入れのモップの下から出てきました。何かのはずみで、あんな所に教科書がいくはずがありません。あんな所に間違って教科書を置く人もいません。これはもう、誰かがかくしたという以外考えられません。教科書をかくした人は、ほんの軽い気持ちで面白半分にやったのかもしれませんが、○○君は国語の勉強の時に困りました。○○君に迷惑をかけているのです」
 そして、次のように話をした。
「やった人は、誰も見ていなかったから絶対にバレないと安心しているのでしょう。でも、隠しているところを見ている人が絶対にいます。神様は、その人のことをずっと見つめていました。そして、今もその人のことを見ているはずです。『神様なんかいないよ』という人もいるでしょう。それでも見た人もいるでしょう。それでも見ていた人は必ず一人います。誰だと思いますか。」
 すぐに、「自分」という答えが返ってきた。
「そうです。どんな時だって、自分は絶対に見ているのです。自分に嘘をつくことは出来ません。これから、死ぬまでずっと『教科書を隠してしまった』ということを背負って生きていかなければならないのです。大人になって、この時のおkとを思い出すたびに胸が締め付けられるのです。でも、今なら間に合います。先生に話しに来て、○○君にあやまれば、この先つらい思いをすることはありません。誰だって、間違いはあるのですから、やってしまった人がいるのなら、こっそりでいいから先生のところに話しに来なさい」
 これで話は打ち切り、授業を再開した。
 帰りまでには当事者は来るだろうと楽観視していたのだ。それで、隠された子に謝らせて一件落着の予定であった。
 ところが・・・。そんなにうまくいかなかった。その日、私が帰るまでに隠した子はとうとう現れなかったのである。
 2 道徳授業で取り上げる。
 教科書は出てきた。全員のまえで話もした。一応事件も事件も落ち着いた。
 しかし、私が気が済まなかった。
 隠した本人は、名乗り出てこない。人が困っているのを陰でコソコソ楽しむという行為が許せなかった。
 自分は傷つかない安全な場所に身を置いて、人が困っているのを陰でコソコソ楽しむという行為が許せなかった。
 かといって、やった子は特定できない。取り調べなんて言語道断。
 しかし、せっかくの事件である。なんとか、行為のいやらしさと重大性をみんなに気付かせたいと思った。
 考えた末に、この事件をテーマにした道徳授業をすることにした。次の日である。

(1) 全員の考えを聞く

 授業は次の問いかけで始まった。

説明1:

 「○○君の教科書がかくされる」という事件がありました。かくした人について、自分はどう思いますか。

 これは、短く全員に発表させた。板書した意見を紹介する。
 ・ゆるせない  ・ひきょう ・ズルイ ・相手の気持ちを分からない人だ ・自分がされたらどうする
 ・弱い人  ・わるい人 ・いやなことがあったら口で言え! ・うらみを持っている人
 ほとんどの子が、隠すという行為に否定的であった。

(2) どれだけの人に迷惑をかけているか

 続いて問う。

発問1:

 本人は、面白半分でやったのかもしれません。でも、この「教科書かくし」が、一体どれだけの人に迷惑をかけていると思いますか。考えられるだけ、原稿用紙に書きなさい。どんな迷惑をかけているかも書きなさい。時間は三分です。

三分後、挙手で発表させた。
・○○君本人…教科書がなくて国語の勉強ができない。かくされたということで傷付いている。
・○○君の親…自分の子がそんなことをされていると知って心配になる。悲しくなる。
・先生…自分のクラスにそんな子がいるとわかったらつらい。悲しくなる。授業ができない。
・クラスのみんな…みんなが疑われていやーな気持ちになる。そんな人がいると思うと悲しくなる。授業が進まない。
・かくした人本人…悪いことをして、自分で自分をダメにしている。
・かくした人の親…自分の子どもがこんなことをしていると知ったら、悲しくなる。
 意見が出尽くしてから、次のように話した。

 一番迷惑をかけられたのは、○○君です。そして、迷惑をかけられたのは○○君だけではありません。みんなが言ったように、こんなにたくさんの人に迷惑をかけているのです。自分は傷つかない安全な場所にいて、○○君が困っているのを陰でコソコソ喜んで見ていたのでしょうが、やった人はこれに気付かなかったのでしょうか。

(3)「人のものをかくす」罪の重さ

 ここから、「人のものをかくす」行為について話をしていく。

説明2:

「人のものをかくす」ことは、いじめです。
 相手を自殺にまで追い込んでしまうようないじめも、「ものをかくす」ことから始まるのです。
 最初は「これくらい」という軽い気持ちでやってしまい、かくされた人が困っているのを見て喜ぶのです。
 次は、もっと困らせてやりたくなって次の方法を考えだんだんヒドイいじめにつながっていくのです。
 このようないじめが続くと、人間はどうなりますか。(「自殺する」という声が聞こえてきた)
 実はいじめは私たちの大切な脳と深い関係があるのです。

 次ページの図を板書しながら、説明していく。
「これは、脳を研究している永田勝太郎さんというお医者の本『脳の革命』に書いてあったことです」

 人間の脳は、3つの層でできています。一番内側には、「呼吸をしたり」「ものを食べたり」「おしっこをしたり」「眠ったり」という命令を出す脳があります。この脳が動かないと人間は生きていくことができません。ヘビなどの爬虫類にもあるので「ヘビの脳」と呼ばれています。二番目には、喜んだり怒ったり悲しんだり楽しんだりするための脳があります。哺乳類の動物にあるので「ネコの脳」と呼ばれています。ここがうまく働かないと、泣いたり笑ったり怒ったりすることができなくなるのです。そして、一番外側にあるのが「ヒトの脳」と呼ばれています。この脳は、人間だけにあり、ものを考えたり覚えたり言葉を話したりするための脳です。このように人間は、これら3つの部分がうまく働いてくれるから生きていくことができるのです。

 さて、人をいじめるということは、この大切な脳のある部分を攻撃していることなんです。
 いじめはどこを攻撃していると思いますか。(挙手で確認した)
「ヘビの脳」と思う人?…0人
「ネコの脳」と思う人?…17人
「ヒトの脳」と思う人?…9人
 実は…いじめは、「ヘビの脳」を攻撃しているのです。(「ええー!」多くの子が驚きの声を上げた)
「ヘビの脳」は人間が生きるための大切な脳です。ここを攻撃されると、生きていく力がだんだん弱くなっていきます。「○○君の教科書をかくす」ということは、○○君の生きる力を奪っていることと同じなんです。
 誰がやったか分からぬまま○○君が「自分はいじめられてる」と思い続けるならば、○○君の生きる力は少しずつ弱くなっていくでしょう。
 だから、やってしまった人は○○君にあやまるべきなのです。たとえ面白半分にやってしまったことでも、○○君にちゃんとあやまって安心させてあげるべきなのです。勇気を出してあやまるのです。

 ※いじめは「ヘビの脳」を攻撃している、という話は平成八年暮れの長州パワーアップセミナーで向山洋一先生から伺った。
 最後に、授業の感想を書かせて終えた。(紙幅の都合上、作文の紹介は控える)
 さて、事件の結末は…。残念ながら私のところへ告白に来る子はいなかった。自分の力のなさを痛感してしまった。
 それでも、授業後、かくされた子の表情が穏やかになっていたことがせめてもの救いであった。
 実は授業の途中気になる二人がいた。一人は、私が最後の話をしているときに目を潤ませて(それでも他の人に差取られまいと)私の顔をじっと見つめていた。もう一人、ずっとうなだれて私から視線を逸らし続けていた。もしや、と思ったが授業後追及することはしなかった。授業を終えた私は、犯人探しよりも今後このような事件が起きなければいいという思いに軟化していたからだ。授業中、子ども達の真剣な表情に接し、「教科書をかくした人への批判」と「人のものをかくす罪深さ」が綴られた子ども達の作文を読んでそうなってしまった。
 TOSS道徳トークラインNO12で、野口芳宏先生は次のように力説されている。

 例えば、あるクラス窃盗事件が発生したとしよう。状況から考えてクラスの中の内部的な出来事であることは明らかである。という場合に「全員の持ち物を出させて調べる」ということはなかなか難しい。これをやったら大変なことになるだろう。(中略)だから、本人が正直に告白しない限り、こういう事件はほとんど解決が難しい。人権の尊重は結構だけれども、こういう人権擁護論というものは、ともするとずるい人間、ごまかし人間を育てかねない。(中略)本当の意味での人間の尊厳というのは、ごまかしたり、嘘をついたりしないということである。個々の人間の尊厳を守ることによって本当の人間の尊厳をそこなうとしたら劇画である。(「硬派!道徳教育論より」

 この授業は野口先生の主張が原動力である。ささいな事件かもしれない。でも、ごまかしたり、嘘をついたりしない生き方は教えなければならない。そんな生き方を子ども達の心に届けたいと思う。しかし、道はまだまだ遠い。

TOSS道徳「心の教育」シリーズ1「生き方の原理原則を教える道徳教育」(明治図書) より


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