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TOSSランドNo: 5569211 更新:2013年10月12日

学習上の困難さをもつ子どもたちに効果のあった指導法 教科書の本文から抜き書きさせる


どの教師も五郎の対応に頭を悩ませていた。授業に集中できない、立ち歩く、指示に従えない、注意すると反抗するという状態であった。今思えば、五郎は軽度発達障害だったのではないかと思う。当時は、そういう言葉すら知らずに対応していた。五郎には、申し訳ないことをしたと思っている。

4月、噂に聞いていた五郎に会った。にらみつけるような目で私を見た。私は「おはよう!」と挨拶をして、五郎とすれ違った。
翌日、社会科の授業があった。五郎は自分の席に座っていたものの、学習用具を出す気配はなかった。私は教科書を3冊持参していた。忘れた生徒に貸すためである。手ぶらで登校する五郎に「教科書を持ってこい!」という指導は効果がない。私は「教科書を忘れた人は授業が始まる前に先生に申し出てください。先生の教科書を貸します。もしくは、コピーします」と伝えた。
私は五郎に「先生から教科書を借りたいですね」と聞いた。突然の質問だったので、焦った五郎は小さく頷いた。ここでは「~か?」と質問形で聞いてはいけない。「NO」と答えられては、生徒を統率することができないからである。
この場面では、教師の指示に従わせることが重要である。「~ね!」と確認形で問えば、普通は頷くものである。大切なのは、五郎が初めて出会う教師の指示に最初から従ったという「事実」を生徒全員に見せることである。
五郎を素直にさせることは、五郎自身に安心感を与えることでもある。更に、学級集団全体を授業に集中させる効果もある。

1年間、五郎には教科書を貸し続けた。
「これでいいのだろうか?」という疑問を持ちながらも、「授業に参加してくれるだけで十分だ」という気持ちであった。
修学旅行明けの5月下旬、小さな変化が表れた。五郎が教科書を自らの意思で開き始めたのである。隣の席に座っていた春子が「社会の教科書だけは開くんですよ」と教えてくれた。とてもうれしかった。

五郎を授業に参加させたいと強く思った。そこで、「五郎ができることは何か?」と考えた。教科書を読ませることが最も簡単な方法である。しかしながら、五郎には「荒れた生徒」としてプライドがある。漢字を読めないことを知られることを自分から進んで行うとは考えにくい。教科書を使ってワークシートに取り組ませるにも、答える項目が多すぎて抵抗するであろう。
私の頭の中に、向山洋一氏の『授業の原則10か条』の「一時一事の原則」が浮かんだ。1つのことに絞って学習させようと思った。しかしながら、五郎が目立ってはいけない。学級全体が学習し、その中で五郎も一緒に学習する姿をイメージした。そこで考えたのが、「教科書の本文をそのまま抜き書きする」という方法であった。

 『中学社会 公民』(教育出版)86ページは、「国会は国権の最高機関だ」という小単元である。このページを開かせて次のように問うた。

発問1:

 国会の一番大切な仕事は何ですか。答えは8文字です。
 教科書で調べ、ノートに抜き書きします。できた人は、先生にノートを持ってきなさい。

生徒は一斉に86ページを読み始めた。全員が教科書に目を通しているのであるから、五郎が一人腕を組んではいられなくなった。周囲に合わせて五郎の目は教科書に向かうようになった。
答えは本文中にある。読めば、答えを見つけられる。誰だって正解を導き出したい。だから、集中して教科書を読むようになる。生徒全員が教科書を読まざるを得ない状況に追い込まれたのである。

五郎も追い込まれた。周囲の雰囲気に押され、教科書を読み始めた。そして、ノートに答えを書いた。ノートは持ってこなかったが、私は大きな○をつけた。五郎にとっては、久しぶりの○になったはずである。
10人目(固定はしていない)までに○をもらった生徒は、まだ見つけていない生徒にヒントを与えてもいいことにしている。いわゆる、「空白禁止の原則」である。その後、11番目にできた生徒に答えを板書してもらう。答えを黒板に書き終わった時点でストップとなる。答えを見つけられなかった生徒は、板書された正解をノートに写すことになる。

卒業まで、五郎はノートを持ってくることはなかった。しかしながら、私がプレゼントしたノートに答えを書くようになった。他教科のように授業を妨害することもなく、落ち着いて過ごした。誰でも答えを見つけ出せるという授業システムが、五郎に集中力とやる気を与えたと考えている。


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