ある学校で、急に明日の全校の音楽集会を指導するように指示されたことがあった。
その時でも、TOSS音楽が提案する様々なパーツを組み合わせれば楽しい音楽朝会ができる。
実際に急に実践した内容を紹介する。この時は、ピアノ伴奏は、別の方が担当してくださった。
その時の音楽朝会は、運動会を前にして、「ゴー ゴー ゴー(花岡恵作詞・橋本祥路作曲)」という曲を全校で歌うことになっていた。
前日の帰り際に、音楽主任から、突然思い出したように私が前で全校を主で指導をするように依頼を受けた。
当時は、まだ、現場経験も少なかったこともあって(新卒2年目)、急な話で驚いたが、とてもいい勉強の機会とらえた。
朝、音楽主任と、初めて具体的な打ち合わせをする。
ここで初めて、いつもご自分は20分間指導しているのだが、私には10分間で指導をするように言われる。
これも急だが、テンポよく、コマとパーツで組んでいけば、10分間あれば、いろんなことができるはずだ。
念のため前日に用意してきた計画を、書きなおす暇はなかったので、頭の中でもう少し短く組み立て直して、実践した。
マイクの調整や準備をしている最中に体育館に子どもが入ってくる。
ピアノ担当の先生に「さんぽ」(久石譲作曲)を弾いていただき、行進をさせる。
2年生が一番早く入場してきたが、全校が集まるまでかなり時間差があった。
ずっと、ただ行進しているだけだと子どもたちが段々飽きてくるのが分かった。
そこで、「歩きながら、先生と同じ動きをしなさい。」と指示。
ソアーべ体操の動きを取り入れて「1・2・1・2…」と号令を入れながら真似させる。
やがて、全校集合となる。
いつもと違う先生が前に立っている。
何をするんだろうと集中している隙に指示を出す。
指示1:
最初に、心と身体をほぐします。先生と同じ動きをしなさい。
子供たちが「何だ」とザワツク前に、ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!…とポーズを取っていく。
子供たちは面白がって、率先してやってくれている。
最後はおサルのポーズを取って笑って終了。
指示2:
いい顔で歌えるように、顔をマッサージします。
「下から上にこうやるんだぞ。上から下にやると、こんな顔になっちゃうぞ!」と言ってやってみせる。
子供たちは大爆笑。
集会では空白の時間を3秒空けると騒ぎ出すという原則があるのでテンポよく次々と指示を出す。
子供たちが楽しくなってしまい、一時的にザワザワとした状態になる。
指示3:
先生と心のベルトをつなぎましょう。
400人でも、400本分の心のベルトがピンと先生とつなげるといいね。
この時やんちゃくんが、きちんと前を向いているので、「おぉ、○○くんとはピンとベルトを張っているね。」と褒める。
「200人とベルトがつながりました!300人、350人…。」
子どもたちを見回しながら指示をしていくと段々と前を向く子が増えてくる。
指示4:
運動会を盛り上げるために、『ゴーゴーゴー』を歌いましょう。
「赤組・黄色組・白組・青組…」と訊いて挙手確認していく。
この学校では4色に分かれていた。
ビックリするほどノリが悪い。
原因は色々あるのだろうが、普段の授業が、真面目で、つまんないんだろうなと分かる。
この時、面喰ってはいけない。子供がやらないならば、私ひとりでやるという覚悟をもつ。
もし、荒れた学校へ行った時にはそういう心構えで音楽の授業をするものだ。
授業で歌わない子供たちのときは、教師が一人で歌えばいい。そういう覚悟が必要だ。
クラス担任たちは、後ろでボサーッと突っ立っていた。
恐らく、音楽専科と担任との関係性なのだろうが、日常からこういう時の協力体制を築いておくべきである。
次のようにお願いをする。
指示5:
担任の先生方。
子供たちの後ろについて、鼓舞していただけませんか?
このようにお願いするだけで、協力してくれる。
学級担任は、ニコニコしながら、一緒に歌ってくれればいいのだ。
全体で声が出ないときには個別評定をする。
アとイは同じメロディで歌詞が違う。
黄色組みは元の曲にないので、歌詞は音楽専科がつくったものだという。
子供たちは、これがあまり気に入っていないらしく、乗り気ではない。
しかし、今そのことをあれこれ言っている場合ではなく、私が恥ずかしがったら子供たちが歌ってくれないのでぐっと堪えて歌わせる。
ア、イとはまた違うメロディである。
子供たちは、普段の音楽の授業であまり習熟していないらしく、全然声が出ていない。
この時、初めて子供たちの実態を知って、内心驚愕しながら、次の戦略を練っていく。
まずは、褒めないといけない。「まだ、1回ぐらいしか歌っていないのに、よく頑張った!拍手!」と言って拍手させる。
この時、事実で褒めないといけない。1回ぐらいしかやっていないというのは事実なのだという。
音楽の授業できちんと習熟してから、集会で歌わせるという原則ができていないが、子供のせいではない。
子供は褒めるべきである。
拍手は全体の一体感を創り出すのに効果的である。固まりそうになる空間を一瞬フッと和らげる効果がある。
指示6:
さあ、この2つの違うメロディを一斉に歌ってみます。
できるかなー?ちょっと恐いなぁ(笑)。
2つのちがうメロディを合わせて、今まで1つずつのメロディが歌っていただけとはまったく違う世界をつくることができるんだ。こういうのをね、パートナーソングっていいます。さあ、やってみようね。
(ア)(イ)と(ウ)(エ)の2つのメロディを同時に歌わせる。
習熟していない中で、子供たちは頑張って歌ってくれた。
歌い終わって、ホッとして子供たちがザワザワとしているところを狙って、「うるせーんだよ!」と第一声。
これは、ネタである。語りの第一声である。
しかし、子供たちは、何だろうと、一瞬シーンとなる。
管理職もギョッとしている。
構わず、語りを続ける。
「かんけーねーだろ!」
授業はサボる。出ない。
すさまじい生徒がいた。その生徒はある時、悪いことをして警察に捕まってしまう。
その後は卒業までずっと学校に行けなかった。
それでね、後になって刑事さんに、「何を一番後悔している」って聴かれたんだ。
そうしたらね、好きなことをして遊べなかったとかそういうことじゃなかったんだよ。
「クラスの仲間とみんなと一緒に頑張ったり、みんなと楽しく歌ったりすることができなくなってとても後悔している」って言ったんだ。
すごくワルくなってしまった生徒でもそう思う。
だから、みんな、今月末の運動会も、ただやるんじゃくって、楽しくっていい運動会にしようって気持ちが是非取り組んでください。
みんなで力を合わせていい運動会にしていってください。
これで、音楽朝会を終わります。
ここで、丁度チャイムがなってぴったり10分である。
ピアノ伴奏の先生にお願いをして、曲に合わせて退場。
なぜ、音楽専科の先生に、「明日は、鈴木さんが音楽朝会をやって!」と言われたのか、やってみて理由が分かった。
私自身は、普段から音楽の授業を受け持っていない中で、実態を知らされずに、いきなり指導をしたというのは、冷静に考えても厳しい状況だった。でも、そういう状況だったからこそ、逆に、子供たちはレディネスがない中でも、指導内容を組み立てて、細分化して教えていけば、ある程度は、楽しくパートナーソングと言う教材を活用して、音楽的な楽しさを味わわせることができることが実証できた。
教室へ戻ってきて、先生方には有り難いことに「良かったよ!」と言っていただく。
管理職も、ウンという風にうなづいていた。
子供たちは、私の所へわざわざやってきて、「せんせいー、チョー、ハズカシカッター!!」と言いにきてくれた。
先生があれこれ指導してくれたのに、上手にできずに申し訳ないという気持ちはよく分かった。
とてもかわいらしい子供たちだと思った。
「そんなことを言っても、ちゃんと一緒にやってくれて有難う。」と言いたいのは私の方だった。
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